自由視点映像が生み出す圧倒的な体験で、人の心のスイッチを押したい | MasterVisions株式会社・澤山雄一さんインタビュー

2022/01/28
自由視点映像が生み出す圧倒的な体験で、人の心のスイッチを押したい | MasterVisions株式会社・澤山雄一さんインタビュー

インフォシティグループは、東京都が行う「5G技術活用型開発等促進事業」の“開発プロモーター”として、スタートアップ企業6社の事業創出を支援します。 この記事では、それぞれがどんな事業に取り組んでいるのか、どんな未来を創造していくのかを発信していきます。
第二回は、スタートアップ企業の1社であるMasterVisions株式会社・澤山雄一さんを取材。 自由視点に興味を抱いた経緯や今後の課題、実現したい未来などについてお話を伺いました。

澤山 雄一(Yuichi Sawayama)


東京工業大学生命理工学部卒業後、上場企業にて人材領域、IT領域に従事。
様々な業界で働く人々の仕事観、人生観、想いに深く触れてきた結果、「誰も味わったことのない圧倒的な体験、 心躍るような瞬間を届け、人を楽しませることをやりきろう」と、2501株式会社(現:MasterVisions株式会社)を創業。

人の琴線に触れるような体験を届けたい、気付きを与えたい

――まず、今の会社を立ち上げた経緯、自由視点の開発に興味を持ったきっかけを教えていただけますか?

そもそも前職では、長年に渡って人材領域やIT領域に従事していました。人材の仕事を通して、何百人という方とお話してきて、 その方々の人生観や仕事観に触れてきましたが、その中に数名、本当に嫉妬してしまう人たちがいたんですよ。 その人たちは「生涯かけてこれをやるんだ」っていうのが明確に決まっていて。 エネルギー量もすごいですし、結果を出しているのはもちろんのこと、何よりも幸せそうだったんですよね。 「何で自分のやりたいことを決められたのか」と尋ねると、どの方も圧倒的な体験をシャワーのように浴びて、どこかのタイミングでスイッチが入った、と。
例えば、こんな話があったんですよ。とある不良の高校生が、たまたま“しし座流星群”に遭遇した。 その瞬間「自分は何てちっちゃいことをしているんだろう」と省みて、それから猛勉強して、今は宇宙ロケットを作っている――。 ドラマみたいな話ですけど、こういう体験って特別なことではなくて、日々僕らのすぐ隣を通り過ぎていていることだと思うんです。 それに気付かないのは、すごくもったいないなぁと。もちろん、どなたがどんな状態で、どんな体験に出会うのか。 そういう巡り合わせによってスイッチが入るかどうかはありますが、このように、どうやったら人の琴線に触れるような体験を届けられるか、 気付きを与えられるかということを以前から常に考えていましたね。
それからYoutubeなどのソーシャルメディアが広がって、いろんな体験や情報が共有できるようになりましたが、 もう一歩足りないなぁと思っていた時に、VRで情報共有できれば世の中が変わるんじゃないかと思ったんです。 2013年頃からVRで実現できる仮想体験を各事業に取り入れて、いろんな実験をしていたところ、僕はスポーツやエンタメが好きだったので、 「もっと向こう側が見たい」「もっとこのシーンを考察して共有したい」と思うようになって。それを実現するには、当時のVR技術では足りず、 社内でも作ることができなかったので、今の会社を立ち上げました。僕が今やらんとしていることは、 “世に起きていることをちゃんとデータとして3D化していく”ということ。 自由視点を通して、それまでの人生にはない刺激的な体験を届けたいと思っています。

可能性が広がる、自由視点映像と相性がいい分野

――自由視点映像を使った最初のターゲットにエンターテインメント、特にスポーツに注目されたんですね。

VRだけだとちょっと足りないなと最初に感じたのがスポーツでした。 例えばサッカーでいうと、全体を俯瞰して見られた方が、本来見たい巧みな駆け引きが見られるなぁと思って。 「あの時何が起きていたのか知りたい」「こっち側が見たい」という思いを実現するとしたら、まずはスポーツが分かりやすいと思い、 いろんなスポーツに自由視点を取り入れていきました。視聴者が端末上で好きなアングルからスポーツ観戦を楽しむという体験以外でも、 Jリーグクラブで監督やコーチが試合中の分析に使ってくれていたり、体操やスケートボードの大会などで、解説者の方から 「これ(自由視点)がある方が断然説明しやすい」と言っていただけていたりして、あるシーンについて誰かの解釈を誰かに伝える点でもとても有効です。

――現在は医療、教育など幅広い分野で可能性を模索されているようですが、どのような分野での広がりを感じますか?

例えばVRだと、医療現場において、見えない血管の中で今何が起きているのかが見えたり、 臓器の位置関係を考えながら手術のシミュレーションができたり、“見える化する”というのがメリットの1つとして挙げられます。
それに対して僕らがやっている自由視点は、実写のものを通常の動画よりも深く観察し、考察することに向いている。 リアルがあって自由視点が活きてくるという感じです。
人によって見たいアングルが違い、その場で起きているシーンを多角的に見せることによって、より深く見ることができて気付きがあり、 そこに価値を見出せる。自由視点はそういった領域に向いていますね。 例えば、医療現場での手術中の先生同士の連携、介護やリハビリでの体の使い方、格闘や茶道・華道などの体全体を使ったものが パフォーマンスに直結する分野とは相性がいいです。エンタメやスポーツの「あったらいいな」に対して、これらは 「自由視点でなくてはならないことって何だろう」という部分を模索した時に繋がっていった分野ですね。

自由視点を広めていくための今後の課題

――自由視点を広めていく上で、技術的な課題はありますか?

自由視点映像化には何台ものカメラ映像が必要なので、それがとにかくネックですね。カメラを常設してしまえば簡単なのですが、 例えば街中で自由視点を撮りたいという場合に、複数台のカメラで撮影する必要があり、それがボトルネックになってしまうので……。 まだ誰でもどこでも自由視点映像を作って共有できるというレベルまで社会実装できていないので、それを補填するためにAI活用などいくつか打ち手が必要ですね。

実現したい、誰もが簡単に自由視点が使える未来

――将来、自由視点映像がより身近で手軽になっていく時、どのような世界が広がるとお考えですか?

将来的には、カメラを複数台設置して撮るのではなく、1,2台のカメラでパッと撮れる時代になると思います。 カメラの種類も設置個所も、利用シーンもこれからたくさん増えていくと思うで、そのエコシステムの中に自由視点映像化していける仕組みが整って、 ようやく世の中に浸透するんじゃないでしょうか。
例えば交差点で事故が起きたとして、その瞬間何が起きていたかを自由視点で再現できるようになる。 そんなふうになれば、社会実装されているといえるんじゃないかな、と。自由視点で再現できれば、シーンが鮮明に映し出されて、 圧倒的に伝わりやすいですからね。最初は僕らが布石となる使い方を示す必要があると思いますが、実際に30人くらいの女子高生、 女子大生に自由視点を使ってもらったところ、僕たちの想像の斜め上をいくような使われ方をしていたんですよ。 そもそも作り手がベストだと思うシーンを映像として作り込むのではなく、使い手がシーンをそのまま“自由”に見るところにこそ自由視点のミソがあるので、 それができるからこそ生まれるコミュニケーションって?という問い方を常にしていきたいと思っていますし、 いろんな実験を重ねていかなきゃいけないと考えています。

――「MasterVisions」で実現したい未来はどんなものですか?

誰もが簡単に自由視点を使うことができて、起きていることを3Dオブジェクト化できる世界ですね。 自由視点って今まで価格もすごく高くて、オペレーションも煩雑でしたが、誰でもパパッと手軽に使えるように大衆化させたいです。
プラットホーム上で使い方とエコシステムを限定するというより、そういうインフラが世にちゃんと広まっている状態にしていきたいですね。 自由視点って、なくてはならない技術かというと、そうでもないと思うんですよ。 例えば、ウォシュレットって別になくても困らないじゃないですか。でも、あるのが当たり前になっている。 それと似ていて、その“当たり前”を踏まえた上で、役立つシーンを作っていこうっていう感じですね。 今後は3次元で見ることが当たり前になって、その方がよっぽど情報が伝わりやすいし、価値を生む領域が確実にあるので、自由視点でそれを実現させていきたいです。
ここ数年の僕の興味テーマは、“人が過ごす人生の時間に対して、それをどうより良く演出できるか”ということ。 ターニングポイントって人それぞれだと思うので、圧倒的な体験を届けた上で、いかに発見のある偶然の出会いを作ることができるのか。 そんな人々の“体験”と“発見”のマッチングを目指して、日々探求していきたいと思っています。

二子玉川で行われる技術実証実験に向けて

――二子玉川で行われる技術実証試験では、どのようなことをされるご予定ですか?

自由視点を使って、二子玉では学べないことを遠隔の人と学び合う、教えてもらう、共有し合う、みたいなことをやりたいなと思っています。 スポーツやバレエ、華道など何でもいいのですが、何かを人から習う時に、自由視点でやると自分の所作がそのまま見られるので、 遠くにいてもあたかも隣にいるように指導できたり、後日指導したとしてもホットな状態で伝えられたりするんですよね。 じゃあこれを実践する時に、生徒が自分の所作を撮って送って採点してもらうのか、先生に自分の所作を撮って送ってもらって学ぶのか、 より良い方法を見つけたいです。時間と場所に括られずに何かを学ぶということが、どのくらい嬉しいことなのかというのも、 いろんな方の意見を聞いて、行動を見て、触れて、確認していきたいなぁと。
そのために必要なものがカメラ台数なのか、リアルタイム性なのか、アングルの広さなのか、付帯機能なのか、もっと違うものなのか……。 自由視点に何かをプラスすることで、日常的に使われる“何か”になると思うので、それを当日の実験で探っていきたいですね。


――自由視点の今後が楽しみです! 本日は貴重なお話をありがとうございました。

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