INTERVIEW2022.11.11

我々にしかできない開発で、5Gを先導していきたい | 株式会社FLARE SYSTEMS・中川貴之さんインタビュー

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インフォシティグループは、東京都が行う「5G技術活用型開発等促進事業」の“開発プロモーター”として、スタートアップ企業6社の事業創出を支援しています。
そんなインフォシティグループの拠点であるDevcafeに導入された「いますぐお試しローカル5Gキット」。 そこで今回、このシステムの提供を開始したスタートアップ企業の1社である株式会社FLARE SYSTEMS・中川貴之さんに、改めて会社を立ち上げた経緯や製品のコンセプトなどについてお話を伺いました。

中川 貴之(Takayuki Nakagawa)


1980年 日本電気工事入社(現:NECネッツエスアイ株式会社)
2013年 同社 ネットワークソリューション事業本部キャリア販売推進本部 本部長
2016年 同社 執行役員
2021年5月~ 株式会社FLARE SYSTEMS 代表取締役社長(現任)

我々主導でビジネスを作れるチャンスをつかみたい

――まず、今の会社を立ち上げた経緯を教えてください。

私は元々、NECのグループ会社・NECネッツエスアイ株式会社に所属していました。 10年ほど一緒にネットワーク系のスイッチを共同研究開発していた中尾先生(東京大学・中尾彰宏教授)から、 4年前に「これからローカル5Gを促進していくにあたって一緒にチャレンジしてみないか?」とお声をかけていただいたんです。 それまで通信事業者様が管理された周波数バンドを扱った事業は経験していましたが、それが民間にも開放されるということで、 我々が培ってきた通信事業者様とのビジネスノウハウを生かせる、我々主導のビジネスを作れるチャンスだなと。 中尾先生と話している中で「ぜひとも、このチャンスをつかみたい」「これは我々に求められているビジネスだ」と感じ、東京大学との産学協創のベンチャープログラムに応募させていただきました。 それが採択され、ローカル5Gの基地局システムの共同研究がスタートし、昨年7月にその研究成果をもとにベンチャー企業を立ち上げることになりました。

目指すのは、民間企業様に手の届く製品

――開発されている製品の特徴やコンセプトは、どういったものですか?

まず、競合するさまざまな大手ベンダーとまともに戦うのか?というところから考え始めました。 キャリアグレードの製品とは真っ向勝負せず、研究段階ですでに安定して動いている実績と、かゆいところに手が届くカスタマイズに対応できるソフトウェア・アーキテクチャーを前面に出した製品にしたいと考えました。 我々が目指すのは、“民間企業様に手の届く製品”。 要するに、民間企業様にも試していただけるような低価格かつ、お客様が求める機能を素早く実装できるものを開発しようと。 そのような思いで中尾先生と一緒に、汎用機に実装でき、ソフトウェアで全て動く基地局を開発してきたという背景があります。 とは言っても、最新の技術と開発経験がなければ容易に開発できるわけではありません。 そういったところは東京大学の中尾先生の素晴らしい最新のノウハウと先端技術力とご指導にすごく助けられ、開発することができました。
製品の特徴としては、小型でコア一体型のシステム。 一般的に他社製品はコアは分離されていて、大きなデータセンターに設置されているのですが、我々の製品は、サーバ1台にコア部分も基地局部分も全て実装された製品になっています。 なおかつ性能も高く、十分な機能が実装され、これらすべてソフトウェアで実現することをコンセプトに開発してきました。

――実現したいコンセプトを形にしていく過程で、いろいろな苦労もあったかと思いますが、いかがですか?

フットワークがいいインフラ製品を開発するために大事なことは、ソフトウェアで実現させることだと考えます。 そうすれば、ハードに依存せず、汎用のサーバに実装もできるし、省エネルギーにする選択も可能です。 こういった“他社ではやっていないことを積極的に取り組む”ということが、一番苦労したところですね。 機能カスタマイズ性や性能の柔軟性を持たせるにはソフトウェアによる対応が優位ですが、無線部分においては、アナログのハードウェア開発にかかわってくるので最初はなかなか思うように進みませんでした。 しかし、東京大学中尾先生の深い知識と開発メンバが汗水垂らして完成することができました。 現段階のシステムはまだ最終的な形ではありませんが、プロトタイプとしては十分機能を果たせるものまで作り上げることができたと思っています。

他にはない、準同期パターンとお試しキット

――機能面での最大の特徴に、準同期への対応が挙げられると思います。手応えはいかがですか?

国内製品で3つのTDD準同期パターン(※)に対応しているのは、現時点では弊社の製品だけだと思います。 上り通信(移動局から基地局への通信)のスピードを重視できるので、このローカル5Gの世界では非常に重要な機能になっています。 こちらのシステムは総務省のプロジェクトなどでも採用されていますが、この準同期パターンは他で実験できないということで、高い評価をいただいております。 そういったところには、我々も誇りを持っていますね。

※総務省 「ローカル5G導入に関するガイドライン」にて規定されているTDD準同期運用方式を指します。
出典:https://www.soumu.go.jp/main_content/000804382.pdf

――製品をより広めていくために、提供の仕方なども工夫されていますよね。

そうですね。 今回、ローカル5Gを2週間から利用できる短期貸出サービス「いますぐお試しローカル5Gキット」の提供を開始しました。 ローカル5Gの市場では、ゼロから製品を普及していかなければならないと思っています。 その普及のスピードを上げていくには、やはり体感をしてもらうのが一番重要だなと。 多くのお客様に使っていただいて、この5Gの良さ、そしてそれを活用したアプリケーションの可能性を感じてもらいたいと考えています。

5Gの発展と今後の課題

――今後、5Gや6Gが発展していくことについてはどうお考えですか?

我々としては、この5Gが分かれ道だと考えています。 というのも、今まで通信事業者様主導で発展してきた携帯通信ですが、これはコンシューマの要求に応えて提供されている通信網になります。 しかし、通信スピードなどは現状、LTEでかなり満足されていますよね。 では、コンシューマとして料金が高くなってまで5Gが必要かというと、必ずしもそうではない。 ところが産業界においては、この5Gがビジネスの差異化のチャンスなんです。 生産性を向上させ、新しいビジネスを開発していく。 そのために高速、広帯域の通信、低遅延、多接続というのはこれからのネットワークに求められる必須機能、性能であり、さらにそれ以上の実力を求めてくる。 そういったことから、次は産業界が通信ネットワークの技術、発展を先導していく時代だと感じています。 我々も、このローカル5G基地局をきっかけにローカル6G、7Gに発展させていきたいなと。 またインフラの開発だけではなくアプリケーションの分野においても、さまざまなパートナーさんと一緒に共創し、開発していきたいなと考えています。 それらを通じて着実にビジネスを展開させていき、気が付いたら5Gを先導していたとなるのが理想ですね。

――5Gを発展させていくために、今後の課題はありますか?

やはりせっかく製品を開発しているので、世の中に少しでも多くのシステムを提供していきたいと考えています。 ただ、それをFLARE SYSTEMSのブランドで出すというのも、特に民間企業様から見ると「どこの会社だ? 本当に信用できるのか?」と思われてしまう。 こういったところをパートナーさんやメーカーさんと一緒にうまく世の中に出していけるようにしたいですね。 ただ、心臓はFLARE SYSTEMSで動いています、と自信を持って提供していきたいと思います。


――今よりさらに5Gを先導されていく姿を楽しみにしています! 本日は貴重なお話をありがとうございました。

ローカル5Gソフトウェア基地局 体験レポート

10月15日(土)、Devcafeで行われたDXY Lounge。
その中でFLARE SYSTEMSのプレゼンテーションが行われ、ローカル5Gソフトウェア基地局について説明していただきました。

Devcafeではまだ実験局免許を取得していないため、電波が外に漏れないようにテント型のシールドルームが使用されており、その中にはアンテナとスマホの代わりとなる受信機が置かれています。
免許についてはただいま申請中で、免許が取得できるとシールドルームがない状態で利用ができるとのこと。 よりコンパクトになり、電波を広く出すことができるようになると、いろいろな検証がこのDevcafe内でできるようになります。

そして、こちらが基地局といわれるもの。ゲームPCに搭載しており、バッテリー電源で動かすことができます。 昨年実施した富士山での検証も、電源のないところで電波を出し、この一体型の基地局が重宝されたとのことでした。可搬型でどこにでも持っていける、他にはないシステムとなっています。

中川:5Gを活用したアプリケーションを持っている方、デバイスを開発してそれを試してみたい方などたくさんの方に来ていただき、いろいろな検証をしていただきたいですね。 そこであらゆるニーズを吸い上げて、基地局のシステムにフィードバックしていきたいなと。 やはりシステムを良くするためには、多くのお客様からいろいろなご意見を聞くことが重要になってきます。その意見の多さ、そしてそれをいかに早く仕入れて反映させていくか。 それが差異化につながっていくと思います。

DXY Loungeに参加した方々は、Devcafeに設置された基地局に興味津々な様子。たくさんの方に知ってもらい、体感していただける機会となりました。

このシステムが今後たくさんの場面で使用され、ローカル5Gの普及につながっていく。そんな未来を期待し、これからもDevcafeでは最新の情報を発信していきます。