REPORT2022.12.20

「SPECIAL SESSION by stu」イベントレポート 第1弾

メインビジュアル

11月11日(金)、株式会社stuが渋谷未来デザインとパートナーを組み、「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」内で「SPECIAL SESSION by stu」を開催しました。 このSOCIAL INNOVATION WEEKは、「アイデアと触れ合う、渋谷の6日間。」として、日本最大級のソーシャルデザインをテーマにしています。 その中でstuは、3つのセッションを実施。先端技術とクリエイティブをかけ合わせることで広がる可能性について、各方面の有識者が集まり、議論を交わしました。 今回はそのSESSION 1の様子をレポートします。
>イベントの詳細はこちら

SESSION 1のテーマは「先端技術 × エンターテイメント=社会実験」。
メタバースの社会実装がもたらす価値とは何なのか。現状の課題や解決策について、これまでの事例を振り返りながら議論し、先端技術によって拡張していく社会の可能性や未来の展望について語りました。
SESSION 1の映像はこちら

<登壇者>
大前広樹 氏(Unity Technologies Japan合同会社 執行役員)
大江貴志 氏(オークツ株式会社 代表 / 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD)研究員)
今村理人 氏(株式会社stu Vice-President / 3DCG Producer)
髙尾航大 氏(株式会社stu Software Engineer / Producer)
青木雄斗 氏(株式会社stu Tech Lead)
モデレーター:水田修 氏(KDDI 事業創造本部 XR推進部 サービス・プロダクト企画1グループリーダー)

ゲーム・映像業界において長年CG制作に携わっている今村さんは、10年ほど前にDTM用の音声合成ソフト・初音ミクを制作。それはリアル空間でバーチャルアイドルがライブを行うというものでしたが、その後、4年ほど前にバーチャル空間だけでライブを実施。リアルと同じ感動体験が得られるのか実験したところ、お客さんが感動しているのを見て「新しい体験を生み出せる可能性を感じた」といいます。

さらにそのバーチャルライブを全国の映画館で流すライブビューイングを行ったところ、映画館は大盛り上がり。バーチャル空間が本会場でリアル空間がサブ会場という通常とは逆転した状況でも人々が楽しんでいる様子に、「新しいライブエンターテイメントの形がある」と実感したそう。

また、これまで閉塞的だったゲーム業界ですが、今はさまざまな分野にゲームエンジンの技術が使用されており、業界の壁がなくなってきていると話す今村さん。その話に共感する大前さんは「特に産業界においては、VRやARを使って業務の効率化を図っていて、成果も出し始めている」と話しました。

このようにバーチャルにはいろいろな可能性がある中で、さまざまな課題もあります。
大江さんは「地方はアナログの世界が多い。インターネットも遅く、高齢者が多い場所にメタバースを持って行っても、彼らを取り残してしまうかもしれない。なので、メタバースの空間だけで完結するのではなく、デジタルの空間で起きていることをいかにリアルの世界に戻していくのかというのが今後の課題。」と話しました。

続けて大江さんは、アナログの時代の文化をデジタルに継承していくことが大事だと語ります。
「現状、インターネットが普及する1990年より前の日本の文化、エンターテイメントがまだデジタル化できていない。アナログを主流とする上の世代の人たちから今まで生きてきたノウハウや文化の源泉を継承し、それをデジタルで記録し直して活かしていかなければいけない。」

それを受けて水田さんは「デジタルは消え物が多い。その中で、伝承する・保存するという目的でデジタルをフル活用するというのは、実はなかなかやってこなかったことかもしれない」と大江さんの発言から気付きを得たとコメント。

実際、京都府亀岡市にある文化資料館の完全なデジタル化をstuで進めており、青木さんはそのプロジェクトを主導しています。「所蔵されている大量のデータを利活用し、メタバース空間上にデジタル文化資料館を作る。それによって京都府亀岡市の認知の向上につなげたい」と話しました。
また、業務を進める上で感じたのは「メタバースである以前に、まずコンテンツとしておもしろくなければ、人が見に来てくれない」ということ。そのため、ゲームなどで文化を学習できる体験的なものも取り入れて制作しているといいます。「データは簡単に保存できても、人々のモチベーションや理由、感想などは引き継がれない。どうしてもインタラクティブな体験を通してしか、そういう人々の"思い"というのは引き継がれていかないんじゃないか。」と話しました。

そして今、髙尾さんがstuで進めているのが、ライブ・コンサート制作におけるバーチャルプリビジュアライゼーション。これは実際のアーティストをモーションキャプチャーしたものをバーチャル空間上に作ったライブステージ上に投影し、それをリハーサルとして活用するというもの。この技術を応用することで、リハーサルだけでなく、ライブとして、コンテンツ化し保存することも可能になります。ただ、これを一般の人が実際に体験するには、現状スペックの高いパソコンが必要とのこと。そこでstuではクラウドレンダリングという技術を用いて、URLをクリックしたりQRコードをスキャンしたりするだけで、クラウド上にあるバーチャル空間に入ってコンテンツを楽しめるような技術開発を進めているといいます。
髙尾さんは「見て体験できるのが現状2Dの画面になっている。これがVRで体験できるようになれば、簡単な操作でパッと入ってパッと体験することが可能になる。人数の上限なく、たくさんの方が体験できる未来を目指したい。」と志を語りました。

最後に、stuとしてどんな未来を目指したいか、今村さんが語ります。
「テクノロジーは、必要に迫られないとなかなかデジタルシフトしない。例えば、コロナ禍で多用されるようになったzoom。この技術は今までもあったが、必要に迫られないと浸透しなかった。メタバース技術も同じ。使ってもらうためには、使う側のニーズを考え、どんな使い方がいいかアイデアを出し合っていくことが重要。あとは、メタバース空間に憧れの場所を作りたい。バーチャル空間でしか見られないライブだからこそ、そこに行きたいというモチベーションが初めて生まれる。今は、メタバース空間に行きたい動機がなかなかないと思う。若者が渋谷に憧れるように、メタバース空間にも憧れの場所を作れたら、みんなデジタルシフトしてくれるかなと。そういったところを今後チャレンジしていきたい。」

メタバースの社会実装は、今までアナログであったものをデジタル化して記録・保存しておくことができる。しかし、楽しいコンテンツとして見せないと人々がそれを使ってみようというモチベーションにはつながらない。ここで交わされた議論から得られたことをそれぞれの分野で生かしていければ、メタバースがより身近なものになるのではないか。そんな風に考えさせられるセッションでした。

>第2弾の記事はこちら
>第3弾の記事はこちら