「SPECIAL SESSION by stu」イベントレポート 第3弾

2022/12/20
「SPECIAL SESSION by stu」イベントレポート 第3弾

11月11日(金)、株式会社stuが渋谷未来デザインとパートナーを組み、「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」内で「SPECIAL SESSION by stu」を開催しました。 このSOCIAL INNOVATION WEEKは、「アイデアと触れ合う、渋谷の6日間。」として、日本最大級のソーシャルデザインをテーマにしています。 その中でstuは、3つのセッションを実施。先端技術とクリエイティブをかけ合わせることで広がる可能性について、各方面の有識者が集まり、議論を交わしました。 今回はそのSESSION 3の様子をレポートします。
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SESSION 3は「日本のエンタメに求められる抜本的アップデート」。
日本のエンタメコンテンツからグローバルヒットがなかなか生まれない理由を制作背景から紐解き、海外での事例をもとに、今後の世界との競争において必要なことを議論しました。
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<登壇者>
SKY-HI 氏(株式会社BMSG 代表取締役CEO)
田中眞一 氏(脚本家 映像監督)
黒田貴泰 氏(株式会社stu CEO)
ローレン・ローズ・コーカー 氏(株式会社stu COO)
モデレーター:長田新子 氏(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)

まず、日本のエンターテイメントの現在地点を共有するため、黒田さんが日本の貿易収入の推移を紹介。世界で知られている日本のコンテンツは1980年代~2000年代前半のものが多く、これは日本の産業が国外に輸出された時にコンテンツも一緒に世界へ出ていたという背景があるのではないかと分析しました。
しかし2006年以降、貿易収支はどんどん赤字になっており、2022年度は日本の歴史史上最大の貿易赤字を記録。このデータから黒田さんは「世界に対してちゃんと売りに行くという意志を持ち、戦う姿勢を見せていかなければならない。」と話しました。

エンターテイメントの最前線を走るSKY-HIさんは「例えば、大好きなK-POPアイドルがCMをやっているから韓国製の電化製品を買う。さらには、韓国という国自体を好きになる。そういう現象が起こりえるのがエンターテイメントによって起こる好きの力が増幅した時の強さだと思う。」とエンターテイメントの重要性を語りました。しかし、現状には危機感を抱いているようで「これまでのように国内の需要にだけ目を向けていては産業が縮小していく。売り上げがないから予算が出ない。予算が出ないから良いものが作れない。良いものが作れないからファンが増えない。そうなるとエンターテイメント産業に就きたいという人も減る。そんな悪循環になってしまう。」と話しました。

世界で考えた時に、日本の比較対象として避けて通れないのが韓国。そこで、黒田さんは韓国コンテンツの輸出総額に関してのグラフを紹介。音楽で比較すると、日本の輸出総額が10年間で2倍になったのに対し、韓国は20倍になっているとのこと。

さらに、映像でも数々のヒット作を世に出している韓国は、ハリウッドなどアメリカの映像制作を研究していると語る黒田さん。そこで、ローレンさんが日本とハリウッドの映像制作の違いについて説明しました。

「日本はインテグラル型。放送枠(事業体)が先にあり、そこに対して企画をはめ込んでいくため、ビジネスが先行している。一方、ハリウッドはモジュール型。事業自体が組成されるのが、グリーンライト(製作決定)が出てから。それまではプロジェクトが頓挫する可能性もある。」
加えて黒田さんは「ハリウッドは、プリプロダクションにかなりの時間を使っている。何を作るか、それが本当におもしろいのか、どういう風に届けていきたいのか。それを徹底的に考え尽くし、型にはまらないという意志がクリエイターの中にあるのが強みだと思う。」といいます。

では、日本はどうしたらアップデートできるのでしょうか。まずクオリティーの高いコンテンツとは何なのか。ハリウッドの教科書に載っている定義によると、クオリティーは「自分たちのビジョンの達成度」「同業者の評価」「ファンの反応」「ROI(投資利益率)」の4つに分類され、これをすべて満たしているのがコンテンツのクオリティーであるとのこと。

これらを踏まえた上で、stuはSKY-HIさんが設立したBMSGのアーティストであるBE:FIRSTのミュージックビデオのプロダクション業務を行っているそう。映像制作のプラットフォームをゼロから作りたいという思いから、予算がいくらで何にお金を使ったのか、撮影時間やカット数など、すべてのデータをケーススタディとして記録。これによって、プロダクションの目標が達成できているのかを定量的に可視化して見直すことができるといいます。

黒田さんは「実現したいことに向かうための段取りが分かりやすくなり、このデータを次に制作する人たちと共有することで作品のクオリティーが上がっていく。」と話します。SKY-HIさんは、会場のスクリーンに投影したこれらのデータを見ながら「このデータを公開することは、競争相手に有益な情報を与え、いろんな会社のミュージックビデオのクオリティーを上げる可能性もある。敵に塩を送る行為かもしれないが、そうしないとそもそも競争ができない。競争が起こらないとクオリティーの意識の根本的な向上やシステムの更新につながらない。時間とお金がない中で作っていくというのが当たり前になりすぎてしまっていることに関しては、問題意識を持って、エンターテイメント業界全体で変えていかなければならない。」と語りました。

そんなBE:FIRSTのミュージックビデオ『Message』の脚本を担当した田中さん。これは"ライターズルーム"という日本では新しい脚本制作フローで作られました。このフローは、ショーランナーと呼ばれる脚本を総括する人の下に脚本家A・B・Cがいるという形になっています。アメリカの制作会社のライターズルームに参加した田中さんは、「アメリカは協業するのが当たり前で、個の力にすべてを委ねることがない。それぞれに意見を確認しながら進めていく。一人でやるより、多人数の才能を結集して作り上げる方がおもしろいものが作れる。」と話しました。日本ではNHKとTBSが立ち上げているものの、まだまだ実例は少ないのが現状。そんな中stuではいち早く導入し、それを立ち上げた田中さんは「今後はこの制作フローが主流になっていく。」といいます。

最後にそれぞれが「世界の人々にクオリティーの高いコンテンツを届けたいという思いで、今後もアップデートしていきたい」と語り、長田さんは「アイデアが形になる日がもう来ている。今日会場にいるみなさんにもサポートしていただいたり、一緒にコラボレーションできたりしたらいいなと思う。」と締めました。

日本の現状を確認し、どうアップデートしていくのかを考え、新しい手法を取り入れていく。それぞれが刺激し合うことで、エンターテイメント業界がますます盛り上がっていくのが楽しみになるようなセッションでした。

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