【ワイヤレスジャパン×WTP 2026】
通信は「つなぐ」から「AIの基盤」へ
今回は、2026年5月27日から29日の3日間にわたり、東京ビッグサイト(西3・4ホール)で開催された国内最大級の無線通信技術の専門展示会「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP) 2026」の現地レポートをお届けします。
今年の展示会で強く感じたのは、通信が「スマホやインターネットを速くつなぐだけの土管」から脱却し、「AIや産業DXをリアルタイムに支える社会インフラ」へと劇的な進化を遂げているという状況です。5Gから6Gへの橋渡しとなる現在、各社がどのような未来を描いているのか、要点をご紹介します。
ワイヤレスジャパン×WTP 2026の基本情報と全体トレンド

「ワイヤレスジャパン×WTP」は、無線通信技術に特化した専門展示会です。
従来は基地局や測定器といったインフラ技術の展示が中心でしたが、今年は企業ネットワーク、工場・物流DX、ロボット制御、衛星通信(NTN)、防災など、実社会の課題解決に直結するソリューションが会場を埋め尽くしていました。
今年の最大の見どころは、「AI前提の通信インフラ」です。
運用側のAI活用:
熟練オペレーターに頼っていたネットワークの障害検知や復旧作業、パラメータ最適化にAIが組み込まれ、自律的なネットワーク運用(AIドリブン)が進んでいます。
AI-RANの台頭:
基地局の処理そのものにAIのコンピューティング資源(GPUなど)を統合し、通信処理能力の向上とエッジAIアプリケーションを同時に支えるアーキテクチャが注目を集めています。

キャリア各社の最前線:
ミリ波からIoT、Open RANまで。通信キャリア各社も、AI社会を見据えた次世代インフラの青写真を明確に提示していました。


NTTドコモ
ミリ波の普及を促進する「つまむアンテナ」の提案や、6G時代の次世代ロボット、5Gネットワークスライシングの展示。
KDDI
ドコモと共用可能なミリ波中継器を開発・展示したほか、AI前提社会の膨大なトラフィックを裏側で支える「オール光ネットワーク(APN)」の取り組みを紹介。
XGMF:最大規模ブースで放つ6Gのリアリティ

会場内で最大のブース面積を誇ったのが「XGMF(XGモバイル推進フォーラム)」です。10社を超える共同出展者が集結し、商用化が迫るリアルな製品から6Gのビジョンまでを網羅していました。こちらの解説については別記事にて詳細にクローズアップしますので、合わせてご一読ください。


次世代ローカル5G基地局:
東大・中尾研究室(NECネッツエスアイとの産学連携)は、出力の異なる次世代機を展示。広範囲をカバーする高出力版(6W)や、PoE対応で小型・軽量化を実現した低消費電力版(2W)なども。
豊富な端末ラインナップ:
富士ソフトは、台湾Pegatron製の長距離アップリンクを実現するミリ波対応FWA用CPE(Power Class1)や、軽量版5G「RedCap」に対応した4Kカメラを披露し、ユースケースの拡大をアピール。
NICT:宇宙と地上を繋ぐ「Beyond 5G/6G」の最先端研究

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のブースでは、2030年代の技術基盤となる「Beyond 5G/6G」の最先端研究が惜しみなく公開されていました。


宇宙と地上をシームレスに繋ぐネットワーク:
「地上から衛星・月・深宇宙をつなぐ-三次元統合ネットワーク制御と高速宇宙光通信-」や「空や海のモビリティとの通信技術」など、災害対策や広域カバーに不可欠な非地上系ネットワーク(NTN)に関する展示。
テラヘルツ波とAIによる次世代通信:
「Beyond 5G/6G等に期待されるテラヘルツ無線技術」や「ミリ波/テラヘルツ波による自動切換えビームフォーミング通信システム」といった超高速通信の要となる技術を発表しました。


途切れないロボット制御:
「ローカル5G信号品質を先読みするフィジカルAI~途切れないロボット遠隔制御に向けて~」など、電波状態の変化をAIがリアルタイムに予測するシームレスな遠隔制御を解説しました。
社会実装を加速させる基盤づくり:
最先端技術を検証し、実用化を後押しする「Beyond 5G/6Gの社会実装を加速するイノベーションテストベッド」の取り組みも紹介。
セミナートレンド分析:見えてきた3つの注目情報
会期中に展開された主要な基調講演・セミナーを分析すると、これからの次世代インフラを構築する上で不可欠な3つの要素が浮かび上がってきます。 以下では、その一部をご紹介します。
1. 現場課題に対する「具体的な実装(ユースケース)」への移行
ローカル5Gやプライベートネットワークは、一時期のバズワード的な段階を経て、「どの現場の何を解決するのか」という費用対効果が問われるフェーズに入っています。

基調講演「ローカル5Gを活用した除雪車両の遠隔監視・制御による省力化・自動化への挑戦」
NTTドコモビジネス株式会社
執行役員 北海道支社長
蛭間 武久 氏
積雪地域における深刻な人手不足や熟練者確保という課題に対し、稚内空港の除雪車両をローカル5G等を活用して遠隔監視・制御する具体的な取り組みが紹介されました。専用の無線環境を構築して映像や制御信号を安定的に扱い、将来的な自律走行や自動化・異常検知に繋げるなど、現場実装の解像度が非常に高い事例として注目を集めています。
2. Open RAN(オープン化)とAIドリブンな自律運用の融合
基幹ネットワークの構築手法や運用保守そのものにも変化が起きています。

基調講演「楽天モバイルのOpen RAN戦略とAIが導く次世代通信」
楽天モバイル株式会社
先端技術開発統括部 イノベーションプログラム開発事業部ジェネラルマネージャー
朽津 光広 氏
AI活用やNTNなど6G時代に向けた取り組みについて解説。
ベンダーロック(特定企業の専用装置への依存)を排除し、コスト抑制と構築の柔軟性を高める「Open RAN(仕様のオープン化)」戦略と、AIが導く通信の未来について言及されました。
3. 無線アクセスと伝送網・NTNの「共進化」
Beyond 5G/6Gを考える上で、無線区間の高速化だけではなく、裏側の光ネットワークや宇宙空間までを含めた統合的な視点が必要不可欠となっています。

基調講演「AI前提社会を支えるKDDIの次世代ネットワーク構想」
KDDI株式会社
執行役員 CNO コア技術統括本部 副統括本部長
古畑 和弘 氏
データセンター間やエッジ・コアネットワークを低遅延で結ぶ「APN(オールフォトニックネットワーク)」への取り組みが挙げられました。エンドツーエンドの通信品質を高めるためには、無線アクセスと光ネットワーク、クラウド、エッジを一体で捉える必要があります。

基調講演「テラヘルツ無線と既存システムの「共進化」」
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)
Beyond Connectivity研究開発推進ユニット ユニット長
寳迫 巌 氏
「テラヘルツ無線と既存システムの『共進化』」について解説が行われました。6Gの要となるテラヘルツ帯などの未開拓周波数を単なる既存技術の置き換えとしてではなく、既存の通信システムとどのように連携させていくかという次世代インフラの重要なテーマが示されました。
通信技術は「共進化」のフェーズへ
ワイヤレスジャパン×WTP 2026全体を通して確認できたのは、次世代の通信ネットワークが「単一規格による既存インフラの完全置き換え」ではなく、用途に応じた複数規格の連携へとシフトしている点です。地上系のモバイルネットワークをはじめ、閉域性を担保するローカル5G、屋内向けのWi-Fi、広域・災害対策としてのNTN、そして大容量伝送を担う光ネットワーク(APN)が、AIによる自律的な運用制御のもとで「共進化」していくアーキテクチャが、今後の基本設計となります。

2030年代と目される6Gの商用化に向けては、研究開発のフェーズから具体的な実装フェーズへの移行が進んでいます。特に、2027年のWRC-27(世界無線通信会議)を見据えたミッドバンド(アッパー6GHz帯や7〜8GHz帯など)の国際的な周波数確保と、既存システムとの共用・移行シナリオの策定が、業界全体が取り組むべき喫緊の課題として挙げられます。
AI時代を支える社会基盤として、これらの通信技術がどのように実装へと落とし込まれていくのか、引き続き動向を注視していく必要があります。