ワイヤレスジャパン 基調講演
「6G最前線:AIと周波数が切り拓く次世代ネットワーク」前半
通信インフラへのAI統合とマネタイズ
今回も引き続き「ワイヤレスジャパン×WTP 2026」のレポートとして、XGモバイル推進フォーラム(XGMF)が企画した基調講演「6G最前線:AIと周波数が切り拓く次世代ネットワーク」の模様をご紹介します。
本記事ではまず、この基調講演の前半部分である「6G-AIセッション」の内容をまとめます。通信インフラへのAI統合(AI-Native 6G)の技術的展望から、運用責任、そして通信業界のマネタイズ構造の変革まで、国内外のトップランナーによる議論が展開されました。
● 翁長 久 氏(総務省 総合通信基盤局 電波部長)
● 中尾 彰宏 氏(XGMF代表 / 東京大学大学院 工学系研究科 教授 / 本セッション モデレーター)
● 野田 真 氏(エヌビディア合同会社 テレコムビジネスユニット エバンジェリスト, シニア デベロッパーリレーションズマネージャー)
● マグナス・エヴァブリング 氏(エリクソン アジア太平洋地域 最高技術責任者)
● ウルリッヒ・ドロップマン 氏(ノキア Standardization and Industry Environment 部門 責任者)※オンライン登壇
AI-Native 6Gの定義と技術的要件

講演は、総務省の翁長氏による開会挨拶からスタートしました。翁長氏は、政府の成長戦略における情報通信分野の3本柱とし「オール光ネットワーク(APN)」「海底ケーブル」「ワイヤレス(6GやNTN)」を挙げ、グローバル市場の獲得に向けた官民連携の重要性を強調しました。
続いて、各登壇者よりAIと6Gの融合に関するプレゼンテーションが行われました。
1. AIを外部ツールから「内部基盤」へ

これまでのネットワーク運用において、AIは外部から最適化を行うツールとして利用されてきました。しかし、6Gに向けてはAIがネットワーク機器の内部に組み込まれる「AIネイティブ」な構造への移行が進んでいます。また、ノキアとエリクソンという競合ベンダー同士がインターフェース共通化で協調する動きなど、業界全体でのエコシステム構築が加速している状況を東京大学 中尾教授が解説しました。
2. 分散インフラとしての「AI Grid」

エヌビディアは、今後のAIワークロード(音声AI、ビジョンAI、メディアAIなど)を処理するためには、中央集権型クラウドではなく、ユーザーに近いエッジ側で処理を行う分散型インフラ「AI Grid」が必要であると提唱しました。これにより、低遅延なレスポンスの実現と、バックホールトラフィックの大幅な削減によるコスト抑制が可能になる旨が定量的なデータとともに示されました。

3. 「インテリジェント・ファブリック」とデバイスの進化

エリクソンのマグナス・エヴァブリング 氏は、ネットワークがAIエージェント間の通信や物理空間のAIを支える「インテリジェント・ファブリック」になるべきだと指摘。将来的なAR/XRデバイスや産業用ロボティクスなどの普及により、アップリンクトラフィックが10〜15倍に増加するシナリオを提示し、それに対応するインフラ能力の必要性を訴えました。
4. 無線設計そのものをAIで再定義

ノキアのウルリッヒ・ドロップマン 氏は、6G時代にはトラフィックの大部分がAIによって生成されるようになると予測しています。これを支えるため、AIを前提とした無線設計が不可欠であり、機械学習アルゴリズムを用いてパイロット信号を削減し、受信性能や通信効率を向上させる研究成果を報告しました。
パネルディスカッション:運用責任の所在とマネタイズ構造
そして最後のパネルディスカッションでは、中尾氏のモデレートにより、実用化に向けた戦略的かつシビアな論点が議論されました。

論点1:AIが誤判断をした場合の「運用責任(ライアビリティ)」
自律的にネットワークを制御するAIが障害を引き起こした場合の責任分解点について意見が交わされました。
● エリクソン / ノキア: 自社が提供する製品・システムに対しては契約に基づき責任を持つという基本的な姿勢を示しました。一方で、マルチベンダー環境やクラウドベースの構成が細分化されると、責任の所在特定が難しくなるという運用上の課題も共有しました。
● エヌビディア: AIエージェントの想定外の挙動を監視する「別のAIエージェント(ガードレール)」をアーキテクチャに組み込むことで、システム全体の安全性を二重三重に担保するアプローチを説明しました。
論点2:エコシステムにおける「マネタイズ」の恩恵は誰が受けるのか
AI-RANの導入によって生み出される利益が、ハイパースケーラー(OTT)に集中するのか、それとも通信事業者が収益を得られるのかという点について議論が行われました。
● エリクソン: 通信事業者が健全な利益を上げられる構造が不可欠であると提言。単純なベストエフォート型の通信から脱却し、用途に応じた差異化された接続性を提供することが価値創出に繋がります。
● エヌビディア: 現在の状況を通信事業者にとっての「iPhoneモーメント」と表現しました。通信事業者が自社の基地局などに持つ分散コンピューティング資源を、APIを介してアプリケーション提供者に開放することで、土管化を回避し、エコシステム内で利益を享受できます。
● ノキア: 通信事業者がRAN内に蓄積される独自のデータ価値を認識し、自前のアプリケーションストアを展開するなどの機会を逃さないことが重要であると語りました。
論点3:6G展開のタイムライン
最後に、中尾氏より「AI-Native 6Gはいつ実現するのか?」という問いが投げかけられ、各社より「2028年には本格展開される」との具体的な見通しの回答がありました。

「6G-AIセッション」では、AIがインフラの内部に組み込まれることで、通信事業者のビジネスモデルそのものが大きく変革する可能性が浮き彫りになりました。
次回の記事では、本基調講演の後半部分にあたる「6G-周波数セッション」の模様をレポートします。WRC-27に向けたミッドバンド確保の動向や、各国の思惑が交錯するリアルな議論の様子をお届けしますので、どうぞご期待ください!