成層圏を、通信と観測を支える新たなインフラへ。
HTA-HAPSを開発するVelocity Aeroworks(VA)・
佐々木悠人氏インタビュー

2026/07/22
成層圏を、通信と観測を支える新たなインフラへ。 HTA-HAPSを開発するVelocity Aeroworks(VA)・佐々木悠人氏インタビュー

次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」でインフォシティグループが支援を行うスタートアップ企業の中から、今回は飛行機型の成層圏プラットフォーム「HTA-HAPS」を開発する、東京大学発のスタートアップ「Velocity Aeroworks(ベロシティエアロワークス、以下VA)」をご紹介します。

VAは、高度約20キロメートルの成層圏を長期間飛行するHTA-HAPSの開発に挑んでいます。

Velocity Aeroworks代表取締役社長の佐々木悠人氏に、独自のHAPS機体開発の裏側から、今後の展望、そして「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」における取り組みについてお話を伺いました。

―― まず、Velocity Aeroworksについて教えてください。

弊社は、東京大学の航空宇宙工学専攻発のスタートアップです。

現在、高度約20キロメートルの『成層圏』と呼ばれる空間を長期間にわたって飛行し続ける、飛行機型の成層圏プラットフォーム『HTA-HAPS』の開発に取り組んでいます。

弊社のCTOである森田直人が2020年に「HAPS Research Group」を立ち上げ、そこから数年にわたり実際に機体を試作しながら、成層圏飛行に必要な要素技術の研究開発を行ってきました。

VAが開発するHTA-HAPSの基本コンセプトは「ソーラープレーン」です。

日中は非常に細長い主翼に敷き詰めたソーラーパネルで太陽光発電を行いながら飛び、夜間はその日中に蓄えたバッテリーの電力のみで飛行を継続します。これを繰り返すことで、数週間から数ヶ月という単位での連続滞空を目指しています。

―― 近年はスターリンクのような低軌道衛星なども注目されていますが、どのような違いがあるのでしょうか?

低軌道衛星と比較したHAPSの強みの一つは、「特定のエリア上空に長期間とどまり、継続的に観測や通信中継を行える」という点です。

低軌道衛星は地球の周りを猛スピードで周回しているため、同じ場所を常に見続けることはできません。複数機でカバーするネットワークが必要になります。

一方、HAPSは高度約20キロメートルと、数百キロメートル上空を周回する低軌道衛星よりも地表に近い位置で運用できます。そのため、同等のセンサー条件であれば高解像度の観測に有利であり、特定地域を高い頻度で継続的に観測できる可能性があります。

さらに、ロケットによる打ち上げを必要とせず、地上へ帰還させて整備やペイロード交換を行える点も特徴です。将来的には、必要な地域や期間に応じて機体を展開する、航空機に近い柔軟な運用を目指しています。

HAPSは限られたエネルギーで長時間飛行するため、少ない推進電力で飛び続けられる高い空力効率が必要です。

そのため、VAの機体では、非常に細長い主翼を採用しています。

一方で、翼が細長く軽量になるほど、飛行中のたわみやねじりが大きくなり、従来の剛体航空機とは異なる設計・制御が必要になります。変形を適切に管理できなければ、強い風や突風などの外乱を受けた際に、機体の姿勢が不安定になったり、構造へ過大な負荷がかかったりする可能性があります。

そこで我々は、主翼の変形を能動的に管理する「能動空力弾性制御」を研究してきました。具体的には、主翼の前方に「カナード(先尾翼)」と呼ばれる小型の翼を複数配置し、機体の姿勢や主翼の変形状態を推定しながら、それぞれのカナードを協調制御する「マルチカナード構成」を採用しています。

突風などを受けた際には、主翼の過大なたわみやねじりを抑える方向に制御します。一方、旋回などの機動時には、左右の主翼に必要なねじり変形を能動的に生じさせることで、軽量な柔軟翼でありながら高いロール応答性を得られることが特徴です。

―― 設計から製造までをVAで一貫して行い、かなりのスピード感で進められていると伺いました。

会社を設立したのが昨年(2025年)の8月ですが、その年の12月にはすでにサブスケール実証機の初飛行を成功させました。
わずか数ヶ月でサブスケール実証機の飛行試験を開始できたのは、研究プロジェクト時代から蓄積してきたノウハウと、設計、製造、飛行試験、改修までを一貫して行えるチーム体制があるからです。設計した機体を実際に飛ばし、取得したデータを次の設計や改修に反映するサイクルを短い周期で繰り返しています。

――「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」では、どのような実証や取り組みをされるのでしょうか?

日本大学の阿部新助教授にご紹介いただいたご縁もあり、インフォシティグループと共に本事業に参画しています。通信とテクノロジーの社会実装を目指すこのプロジェクトにおいて、我々は複数のユースケースの検証を進めています。

一つは、防災領域への応用可能性の検討です。
日本大学の阿部新助教授との共同研究として、人間の可聴域より低い周波数の大気圧変動である「インフラサウンド」を航空機上で観測する研究を進めています。
現在は、弊社の実験機にセンサーを搭載して飛行中のデータを取得し、プロペラやモーターなど、機体由来のノイズを評価・除去するための基礎的な検証を行っています。将来的には、上空からのインフラサウンド観測が防災や広域監視にどのように貢献できるかを明らかにしていきたいと考えています。

また、将来的なユースケースの一つとして、イベントや災害などによって一定期間だけ通信需要が高まる地域にHAPSを展開し、上空から通信エリアやバックホール容量を補完する使い方を想定しています。

例えば、東京都内で大規模なイベントが開催され、特定のエリアに通信需要が集中した際に、HAPSを活用して上空から通信容量を補完するといった使い方を想定しています。

さらに、我々が特にポテンシャルを感じているのが、通信インフラが十分でないエリアにおけるIoTネットワークの構築です。離島への通信中継はもちろんですが、海上で運用される「無人船」や「ドローン」、さらには「海上や離島周辺に広域配置されたIoTセンサー群」からデータを収集する中継プラットフォームは有力なユースケースの一つだと考えています。衛星通信や地上ネットワークと組み合わせることで、海上や離島周辺に配置された多数のセンサーや無人機から、広域かつ継続的にデータを収集するネットワークを構築できると考えています。

―― 今後の開発スケジュールや展望をお聞かせください。

現在は翼幅数メートルのサブスケール機による実証を進めています。2026年夏からは、翼幅30メートル級のフルスケール実証機「GrassHopper」の走行試験および初期飛行試験を開始する予定です。

まずは高度150メートル以下の低高度で、機体の基本的な飛行特性や安全性、ペイロード搭載時の挙動などを確認します。その後、試験結果を踏まえながら段階的に高度を引き上げ、2027年以降の高高度・成層圏飛行実証を目指します。
成層圏への到達だけでなく、長時間滞空、定点維持、通信・観測ペイロードの運用など、実際のミッションに必要な能力を一つずつ実証し、将来の継続運用につなげていく方針です。

日本周辺では、季節によって強い偏西風やジェット気流が発生し、日照条件も大きく変動します。そのため、国内でHAPSを継続的に運用するには、日本特有の気象条件を踏まえた機体設計と運用技術が必要です。
我々は、こうした環境に対応し、機体の設計、製造、整備、運用までを国内で完結できるHAPS基盤を構築したいと考えています。

―― 成層圏からインフラを支える未来が非常に楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー後、佐々木悠人氏(写真中央)とスタッフで記念撮影

■「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」とは

東京都では、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島を持つ東京というフィールドを活かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。
本事業は、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターは、3ヶ年度にわたり支援先スタートアップ企業等の開発・事業化を促進するため、連携事業者(通信事業者や実証フィールド提供者、研究機関、VC・金融機関等)と連携しながら、資金的、技術的な支援やマッチング支援等を行います。支援先スタートアップ企業は、開発プロモーター等の支援を受けながら、次世代通信技術等を活用した製品・サービスの開発及び事業上市を目指します。

▼詳細はこちらをご参照ください(本事業Webサイト):

https://next-5g-boosters.metro.tokyo.lg.jp

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