MUTEK.JP「TOKYO DX Yourself PROJECT 01」現場レポート
渋谷ストリームに何やらカオスな集団が出現!?
日本では6年目となる、電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP2021」が12月8日~12日の5日間、都内の3会場で開催された。 その会場のひとつ渋谷ストリームホールの5階ホワイエにて、11日(土)の終日、延べ80名近い人々が集まる興味深いイベントが行われた。 そこで急きょ、我がDevcafeも取材させてもらった。
このイベントは『XRワークショップ&ハッカソン with MUTEK.JP』と題され、招待された学生参加者とアーティスト、研究者、テクノロジー企業関係者などが入り乱れ、 XR表現をテーマに共同作業を行う。まさに産学民共創プロジェクトの小さな社会実験だった。
MUTEK とは
「MUTEK」は1999年にカナダ・モントリオールからスタートし、文化芸術に関わる人材の発掘と育成をサポートし、新しいアイデアや コンテンツの創出支援をコンセプトに掲げ、自由で実験的な表現の場を提供するクリエイティブプラットフォーム。
本拠地のカナダ・モントリオールの「MUTEK」では、世界各地から毎年約3万人以上が来場し、現在ではモントリオールに加え、メキシコシティー、 バルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイ、サンフランシスコ、東京の世界7ヵ国で開催されている。アジア唯一の開催地の日本では、2016年にMUTEK Japan を設立した。
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イベントを企画したのは技術スタートアップ企業のひとつ、テレポート株式会社CEOの平野友康氏だ。
テレポート株式会社 代表取締役CEO 平野友康 (Hirano Tomoyasu)
コミュニティ運営プラットフォームを開発するテレポート株式会社CEO、VR宇宙旅行社・株式会社スターハウスCEO、参加型社会学会理事、 iU超客員教授。株式会社デジタルステージを立ち上げ、VJソフト「モーションダイブ」をはじめ、BiNDなどソフトウェア開発をプロデュース。 著書「旅する会社」、ニッポン放送「平野友康のオールナイトニッポン」や、坂本龍一氏のネットライブ中継など。グッドデザイン賞金賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞ほか。 現在ハワイ在住。
開会の冒頭、司会を務めた平野氏は、このイベントがアーティストやエンジニアが一方的にプレゼンテーションする発表の場ではなく、 MUTEK.JPという場を借りてXRを含む新たなテクノロジー表現に関わるさまざまな立場の大人たちと、小中高大学生が参加する場を共有すること自体が狙いであると説明した。
「それぞれがやりたいことを持ち寄って、そこで出会いがあり、行き当たりばったりでワイワイやっていたら、たぶん来年の今頃は、想像していなかったところにたどり着いているはず。 一度で終わらせない。」
企画者である彼自身も、何が起こるのか分からない空間を積極的に楽しみたいという、ストレートな始球式だった。
会場は大きく2つのエリアに分かれ、招待されたVJやアーティストが立つグリーンバックの仮説ステージと、年齢も風体もさまざまな大人たち。 そしてその奥に作業場として並べられた長机には、日本大学理工学部航空宇宙工学科の大学生たち、そして一般社団法人アカデミーキャンプの小中高校生たちが陣取っていた。
前半は、テレポート株式会社で絶賛開発中のツールを活用した「オーディオビジュアルライブ ワークショップ」だ。ツールのひとつが"with Teleport"。 コミュニティ・プロセッサーというコンセプトのグループウェアの一種で、画面上にレイアウトされたチャットやスブレットシート、動画、Webアプリなどが参加者全員で リアルタイムに共有できる。今回はその中に、これまた開発中の仮想空間ライブ配信ツール"with Spark"が組み込まれている。 "with Spark"は別途作成された360°映像や3DCGデータに、それこそ1台のiPhoneで撮影された簡易なグリーンバック映像をリアルタイム合成させ、あたかも仮想空間に 入り込んだようなライブ配信を誰もが実現できるツールだ。
この仮想空間内に様々な要素を入れ込むワークショップが展開された。“不足と充足”をテーマにした書道家のライブペインティングや、 仏師でXR使いのアーティストが作成した仏像のフォトグラメトリー、東急の協力で急きょ撮影された能楽堂の360°映像などをミックスした仮想空間上で、 VJとアーティストが即興で音楽や歌を創作するライブを開催。複雑な映像表現が手元のノートパソコンとiPhoneだけで産み出される新しい技術について、 ゲスト講師が種明かしとして解説した。
次に会場に集まった全員に向けて、「XR未来フェス」と題するショートプレゼンの機会が提供された。テクノロジースタートアップ企業は自分たちの開発ソリューションを、 XRを活用する研究者はその可能性を自由に語る。しかし、与えられる時間はわずかにひとり5分、やむを得ない場合だけ10分が与えられるという慌ただしさだ。 それでも、日本大学理工学部や人アカデミーキャンプを含む10人程度が、極めて密度の高いプレゼンを繰り広げた。
その中に、テレポート株式会社と同じく、テクノロジースタートアップ企業である、株式会社マスタービジョンCEO、澤山雄一氏の姿もあった。 澤山氏は本イベントの開催を聞いて、急きょ、同社の自由視点撮影システムを持ち込んだ。15台余りのカメラを、みずからワークショップステージ周辺に設置して、 自由視点技術の可能性をアピールした。
そして後半は、「学生が考える未来のAudioVisualハッカソン」。
講師のサポートのもと、各班の中間発表に加え、XR の最新ソフトやハードを使って即興でバーチャル空間を作成した。日本大学理工学部航空宇宙工学科は、 宇宙科学の専攻分野の要素を取り込みながら、未来のXR AudioVisial 配信のタネとなる「君がつくるVR宇宙ミッション」の探求に取り組む。 一方の一般社団法人アカデミーキャンプの小中高生たちは、全員が人間の体内に入りこみ、ウイルスの世界と免疫の仕組みをVRで再現する医学的探求を行った。 やっている研究や表現も、桁外れのスケールで外から覗いていると正にカオス。VRゴーグルを装着したまま仮想空間で会話する若者の集団に、不思議な可能性を感じさせた。
ハッカソン終了後、講師のお二人に感想を伺った。
一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 斉藤賢爾さん
「いろんな方のお話も聞けたので、本当にいい会になりましたね。今回は、ヘッドセットを被ったまま、学生たちとみんなで共同作業をして、VRワールドを作るという実験ができました。 感覚的にはアップロードされた開発になったと思います。不安もありましたが、結果的に楽しいものになりました。」
日本大学理工学部航空宇宙工学科 准教授/博士(理学) 阿部新助さん
「幅広いジャンルの方が集まっていて刺激になりました。今まで知らなかった人たちと知り合い、交流できたことがよかったですね。今後、たとえば探査機を作って、 他の星に行って取ったデータをVRやXRに落とし込んで、みんなと共有する。そんな新しいツールがまさに生まれつつあるので、そうやって科学とエンターテインメントが うまく融合していくんじゃないかなと思います。」
今回の実験的なイベントを終えて、企画者兼司会のテレポート株式会社・平野友康氏にもお話を伺った。
「本当にいろんな要素を詰め込んだイベントだったので、楽しんでもらえたんじゃないかなと思います。僕自身、誰が来て、どんな会になるのか全然分からなくて(笑)。 そんなイベントは初めてだったので、もうとにかく面白かったですね。今回のイベントでの出会いをきっかけに、また次のプロジェクトが生まれる。 もうすでに、いろんなアイデアの交換が始まっています。今回は東京都5Gプロジェクトのキックオフも兼ねていますが、この事業は非常に自由度が高いんですよ。 そもそもイベントやれなんて言われてないですから(笑)。今回の「MUTEK」では、とにかく“自由さ”を生み出したいと思っていたので、これからも柔軟に進めていきたいですね。 次は、2月に二子玉川で「街とAR」をテーマとした実証実験を予定しています。地域の住民の方に対してツールを開発して、それを体験してもらう。 普通にやるだけだと面白くないので、今回のイベントで得た出会いや発見を活かして、「みんなで一緒になんか楽しいことやろうぜ!」みたいな感じでできたらいいなと思います。」
平野氏には、テレポート株式会社でできること、今後実現したい未来についても後日取材した。とてもワクワクするお話が盛りだくさん! そちらの記事もぜひご覧頂きたい!
平野さんインタビューはこちら